スタートアップ・ワールドカップ2026(東京)を見学して ── ブース・登壇と、「協業」への所感
六本木ヒルズで開催されたスタートアップ・ワールドカップに参加してきました。約100のブースと登壇を回った参加記。ペガサスのCEOが説く「協業」に強く共感しつつ、それを本物にするために私たちが変えられることは何か、を考えます
先週の金曜日、7月17日に開催されたスタートアップ・ワールドカップ2026の東京予選を見学してきました。ペガサス・テック・ベンチャーズ(Pegasus Tech Ventures)が主催する世界規模のピッチコンテストの、東京地区の予選にあたります。ここで勝ち上がった企業は、2026年秋にサンフランシスコで開かれる世界決勝へと進みます。本稿は前半でイベントの様子とブース・登壇のまとめ、後半で私自身のコメントと感想を書きます。前半は見聞きしたことの記録、後半は私個人の解釈ですので、両者は分けて読んでいただければと思います。
そもそも参加のきっかけは、あるベンチャーキャピタルの方と知り合ったことでした。以来、VCが主催・発信するブログやイベントをいくつか眺めるようになり、少し調べてみたところ、ある一社がこのイベントに登壇するらしいと分かりました。その一社が気になって、足を運んだ──というのが正直な動機です。結論から言えば、行ってよかったと思っています。たくさんの人と出会い、たくさんの人と話し、互いに「何をやっているのか」「なぜそのやり方でやっているのか」を語り合えた、実りある一日でした。
会場は六本木ヒルズ、まずはブースから
会場は六本木ヒルズのグランドハイアット東京でした。私は以前このあたりをよく歩いていたので、久しぶりに訪れるのは単純に楽しかったです。
イベントの序盤は、ずらりと並んだブースを回ることに費やしました。数えてはいませんが、おそらく100前後はあったと思います。その中で、いくつか強く印象に残ったブースがあります。
LOOMOx ── 声で機械と話す
なかでも面白かったのが、LOOMOxの中村さん(CEO)とお話しできたことです。同社が手がけているのは、音声インターフェースを備えた自律走行のマシンでした。人が画面やキーボードで操作するのではなく、機械に声で語りかけて、製造現場の作業を自動化していく、という発想です。
この国では、とりわけ製造・食品といった、いわゆる第二次産業の現場で、コンピューターのユーザーインターフェースに馴染みのない方が少なくありません。だからこそ「声で話しかければ動く」という接点は理にかなっている、と感じました。会社の規模はこれからでも、取り組みそのものは非常に興味深く、この国の多くの企業の作業負荷を軽くする希望があると思います。たとえば、人をA地点からB地点へ運ぶ、あるいはロボットにアームを取り付けて、モノを掴んで別の場所へ置く──そうした「移動」や「持ち運び」の複雑さを肩代わりできる可能性を感じました。
私がこの取り組みに惹かれたのには、個人的な背景もあります。以前、ある製造業の会社を支援したことがあるのですが、中小の製造業では、あらかじめ決まった製造の「型」やラインを持っていないことが少なくありません。つくるものがそのつど変わり、作業の動線も一定しないため、作業負荷を最適化しようにも、そもそも最適化する対象が定まらないのです。だからこそ、もし中村さんが構想を形にできれば、こうした現場を大いに助けるはずだと感じました。
気になったブースは他にもたくさんあり、お話しした企業も多かったのですが、すべてを書くと切りがないので、ここでは割愛します。
本編 ── 開会式、学生、そして登壇者たち
ひととおりブースを回ったあと、有料の本編会場へ移りました。チケットは60ドルほどでしたから、それなりに期待して臨みました。
開会はダンスグループによるオープニングセレモニーだったと思います。これはこれで良かったです。続いて、高校生以下を対象にした学生ビジネスアイデアコンテスト「ユースピッチ」があり、自分のアイデアを熱く語る学生たちが登場しました。中にはすでに起業している人もいて、素直にすごいと思いました。また、テレビでは見かけても、実際に同じ場で目にする機会のなかった政治家(知事や議員)の方々も何人か登壇されていて、これは少し名誉なことだと感じました。
そうした挨拶を経て、いよいよ本編であるスタートアップの登壇(ピッチ)が始まりました。
幅の広さそのものが、この場の面白さだった
登壇者の顔ぶれは実に幅広いものでした。アイデアを温める学生から、創業まもない会社、すでに数年の実績を積んだ会社まで、成熟度もフェーズもさまざまです。「スタートアップの定義」は国や人によって揺れるものですが、私はそこにこだわる必要を感じませんでした。むしろ、これだけ異なる段階の挑戦者が同じ舞台に並ぶこと自体が、この場の面白さだと思います。
全体として、登壇の多くは見事でした。中には、私がこれまで意識したこともなかったような、特定の課題に真正面から取り組んでいる会社もありました。言われてみればその課題はたしかに存在するのだと腹落ちし、視野が広がる思いでした。上位入賞には届かなかった会社にも、ぜひ続けてほしいと思いますし、応援しています。
LIFESCAPES ── 脳と機械をつなぎ、麻痺のリハビリを支える
個人的にとりわけ好きだったのは、LIFESCAPES(株式会社LIFESCAPES)という会社でした。慶應義塾大学発のスタートアップで、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)技術によって脳と機械をつなぎ、脳卒中後の重度麻痺のリハビリテーションを支援する医療機器を手がけています。動かそうとしたときの脳の活動を読み取り、その信号に応じて手に装着した装置を動かす。これを繰り返すことで、脳と手をつなぐ神経の回路が再構築され、ふたたび自分の意思で手を動かせる可能性がある、という仕組みです。地味に見えて、実は多くの人の生活の質を左右しうるテーマだと感じました。
なお、イベント運営については細かな気づきもありましたが、いずれも些細なことです。全体としては、十分に楽しく、学びの多い一日でした。
私のコメント・感想 ── 「協業」について
会場では、ペガサス・テック・ベンチャーズ(Pegasus Tech Ventures)のCEOによる、日本のベンチャーキャピタル/スタートアップ経済の現状を扱った書籍も手に入れました。イベント直後にざっと読みましたが、内容はおおむねCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)についてのものでした。著者が投げかけている問題意識には、私も強く共感します。私自身、これまでITの波に乗り切れてこなかった中小企業が、アメリカやヨーロッパの水準に追いつけるよう支援する仕事に取り組んでいるからです。
そして、そのCEOは登壇の中で、日本経済を押し上げるうえで「協業(コラボレーション)」が非常に重要だと強調していました。これには完全に同意します。
協業を「本物」にするために、変えられること
一方で、掛け声としての協業と、実際に機能する協業のあいだには、まだ距離があるとも感じています。うまくいかないときの原因は、たいてい仕組みよりも「構え」の側にあると私は考えています。
もし本気でスタートアップと組みたいのなら、あるいは小さなベンチャーと手を取り合いたいのなら、まずスタートアップや小規模ベンチャーに対する向き合い方を少し変えるだけで、景色は大きく変わるはずです。相手を下請けや実証実験の道具としてではなく、対等なパートナーとして迎える──それだけで、協業はぐっと現実味を帯びます。裏を返せば、変えるべきは大がかりな制度ではなく、私たち一人ひとりの態度なのだと思います。
協業は、掛け声ではなく、相手への態度を変えることから始まります。そしてその態度は、今日からでも変えられます。